床座生活のススメ 尾形聡子

目を閉じて思い浮かべれば、畳の上には丸いちゃぶ台。冬にはこたつでミカン。
昭和の時代を生きてきた日本人なら誰しも懐かしさを感じる光景ではないだろうか。

しかし近年は欧米化が進み、靴は玄関で脱ぐものの部屋の大半は洋室仕様になっている。椅子に座る生活スタイルが浸透し、いまとなってはむしろ、床に座っている時間のほうが長い人は少数派になっているのかもしれない。
もれなく犬が暮らす場所も、家の外から中にと変わってきている。

そんな中で、犬と生活するのなら、あえてわたしは床座生活をおススメしたい。

                                       Photo: Satoko Ogata

思いかえせば、今年12歳になった犬たちと暮らし始めてからずっと、床座がメインの生活をしてきた。
キレイ好きな人にとってみたら、犬と一緒に床で生活するなんて考えられない行為なのかもしれないけれど。
やっぱり床座生活はいい。
犬たちが外から運んできた砂や枯葉が床に落ちていようとも。

日本人のDNAの中に、それこそ桜を愛でる心が刻まれているのと同じように、床座生活の心地よさも感じるように組み込まれているのかもしれないし、単に、体が床と接触する面積が多いと、どことなく安心するからなのかもしれない。

けれど、なにしろ犬との床座生活がいいのは、お互いの視線の高さが自然と同じくらいになることだ。

自然に目と目が合いやすくなれば、ちょっとした瞬間のアイコンタクトが増えて。
そこに、何かをしようとか伝えようという意思はお互いに必要がなくて。
寝ているふりして私の挙動をコッソリと目で追っている、ただそれだけのことに、一緒の空間を共にして生きているんだという幸せを感じる。

ゴロリと床に横になってみれば、どこからともなく顔を覗き込みにやってきて、ベロベロ攻撃にあうことも。
そんな時には寝ながら犬の顔を見上げてみれば、新しい発見だってできるかもしれない。
犬たちの顔は、いつ何時、どこからどんなふうに見たって愛おしいものだ。

犬を人の高さに合わせるのではなくて、人が犬の高さに合わせてみる。
合わせてみたくなるのは視線の高さだけではないことにも気づくことができた。
これは床座生活を通じて犬たちが教えてくれたことだ。

2016年 8月